変容する世界

ーベーシック・インカムのある社会ー

ベーシックインカムとは?②

過去の記事に引き続き、ベーシック・インカム(BI)の基礎について、もう少し触れておきたいと思います。

 

前回、ベーシック・インカムについての説明は、下記のように一言でまとめました。

全ての国民一人一人に、最低限の生活を保障する一定金額を、国が国民に無条件で定期的に給付し続ける制度

 

これを、条件ごとに分けて少し言葉を補います。

1. 世帯ごとではなく一人一人全ての国民に

2. 最低限の生活を保障する一定金額を

3. 所得、資産、健康状態などの条件に関わることなく

4. 国家や自治体などの公的機関が

5. ある特定期間ではなく永久的かつ定期的に、支給される

 

以下、各条件ごとに詳細を迫ってみます。

 

1. 世帯ごとではなく一人一人全ての国民に

生活保護国民健康保険などの社会保障では、世帯毎に支給・算出されるケースがありますが、BIは一人一人の「個人」に支給されます。よって、0歳でも100歳でも、世帯主であろうがなかろうが、年齢や扶養の有無に関わらず誰にでも支給されます。

 

2. 最低限の生活を保障する一定金額を

「最低限の生活を保障する一定金額」の定義は、国によって異なるでしょう。たとえば、先日スイスで行われたBI導入にあたる国民投票では、月額2500スイスフラン(約27万円)の支給が検討されていました。物価に応じて国毎に金額が変わるケースと、他には段階的な導入も検討されてます。これは、同じ国内でも金額が徐々に引き上げられるケースで、例えば月額5万→10万→15万という導入方法も考えられます。

 

3. 所得、資産、健康状態などの条件に関わることなく

生活保護の場合、健康状態や資産の有無などの受給者の条件がいくつか定められています。これが結果的に、生活保護受給者よりも労働者の方が総収入額が低いという矛盾した不平等さを招いています。しかしBIの場合、支給条件は全くありません。年収100万円の人も1,000万円の人も同じ金額が支給されます。支給金額より多い収入が欲しい人はさらに稼ぎ、支給金額で十分な人は働かなくて良い、というような選択肢が生まれます。

 

4. 国家や自治体などの公的機関が

テスト導入においては、先日の記事で紹介したように民間企業や投資家が出資するケースがありますが、本格導入に至っては原則自治体、とくに国家レベルでの支給が世界的に検討されています。民間レベルでの導入も可能なのでしょうが、世界的にBIの位置付けは社会福祉として認識されています。

 

5. ある特定期間ではなく永久的かつ定期的に、支給される

多くの社会保障は、支給条件があるためそれに応じて支給期間が限定されます。失業保険であれば期間は限定されており、生活保護は条件が変われば支給期間が変わります。生活保護の場合は逆に、一度受給するとそれに甘んじて経済的自立を損なう、という現状もあります。しかしBIでは、生まれてから死ぬまで永久的に支給され、またある一定の時点でまとめて一括で支給されるわけではなく、定期的に支給されます。よって生涯的に最低限の生活を保障します。

 

 

いかがでしょうか。各条件を細分化することで、BIのある社会がどのようなものであるか、よりリアルに想像できるのではないでしょうか。今回は条件の説明に留め、その先に生まれる疑問や課題には触れていません。BIどはどのような社会を生み出すのか、人々の生活をどのように変えるのか、今後もより想像を膨らましていきたいとおもいます。

 

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べーシック・インカムの世界の動向

本格導入に至る事例はないベーシック・インカム(BI)ですが、欧州を中心に導入が検討されています。 

以下に、各国の動向と事例を羅列します。

 

 
他の都市でも、BIという名目ではない類似する保障制度のテスト事例が実施されたケースがありますが、ここでは割愛します。
 
欧米各国において動向が見受けられますが、特にフィンランド、オランダ、スイスといった欧州諸国では、他国に比べ本格導入に向けた動きが進んでいるようです。
 
なかでもフィンランドは、自治体レベルではなく国家レベルでテスト導入を開始する、世界で初めての国となります。
 
次回以降は、各国の導入事例の詳細をみていきたいと思います。
 

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Y Combinatorが、ベーシックインカムの検証実験を計画中

6月上旬、ベーシックインカム(BI)についてこんなニュースが取り上げられていました。

 

jp.techcrunch.com

 

Y Combinator(Yコンビネーター)とは、アメリカ発のテック系ベンチャーキャピタルです。2010年、雑誌Forbesで「世界を変えるテック系インキュベーター10選」に選出され、テック分野を先導する、世界から注目を浴びている投資企業の一つです。

 

そのY Combinatorが、拠点とするカリフォルニア州オークランドにおいて、BIの5年間の検証実験を計画中と発表しました。

 

現在世界中で実施されているBIのテスト導入は、各国自治体レベルに留まります。そのため、財源も同様に自治体または上例のような投資家・企業から拠出されています。しかし、将来的に国家での導入に至る場合、一番大きな問題の一つは財源です。支給通貨においては、仮想通貨や現金など様々な手段が議論・検証されているようですが、現金の場合は国家予算に直結します。そのため、政治分野に携わる人々、特に社会保障が充実している北欧諸国以外、とりわけ日本人からは、BI導入の反対意見を多く聞く印象があります。

 

それに比べて、テック業界では積極的な導入が検討されているように感じます。初回の記事でも触れたように、テクノロジーの進化とBIは非常に親和性が高いです。Y Combinatiorのようなテック分野の進化を牽引し時代を作る企業にとって、自分たちが生み出すテクノロジーやサービスがある世界に住む、未来の社会や人々の暮らしについて考慮することは当然のことなのでしょう。私自身も、先にシンギュラリティに興味を持った後は、自然とBIへ関心を持つようになりました。

 

話しは脱線しますが、先日の参議院選挙の一連のニュースを見て非常にがっかりした私にとって、今の日本の政治家達よりも、テック業界に携わる人々の方がよほど未来の社会作りに貢献しているように思えてなりません。

 

 Y Combinatorの会長のSam Altmanは、下記のように述べています。

検証期間中、いかなる状況でもベーシックインカムを提供し続けます。参加者はボランティア活動をしてもいいですし、仕事をしてもしなくてもいいのです。海外に引っ越しても構いません。なんでもできます。私たちはベーシックインカムが自由な行動を推奨することに期待し、この研究では人がその自由をどのように体験するかを知りたいと思います。

 

マズローの欲求5段階説に基づけば、BIは下から二つの「生理的欲求」と「安全欲求」を満たします。次いで、「社会的欲求(帰属欲求)」→「尊厳欲求」→「自己実現」と続きますが、このピラミッドの順番のように人間の欲求は上がっていくのでしょうか?私はそのようには思いません。資本主義社会で経済成長を遂げてきたこれまでの時代においては、この原理が働いていたのかもしれません。しかし、テクノロジーの進化とBIのある衣食住+金銭的欲求が満たされた社会では、資本主義経済は崩壊すると思っています。そうなると、生きる上での最低限の欲求が満たされた世界では、人々はより創造的な生き方をするのではないかと思っています。また、BIは貧困を緩和し個々人の格差を少なくするので、必然的に競争意識が減ると思います。すると、人はより社会的な繋がりを求めるようになるのではないでしょうか。

 

生まれた瞬間から自己実現ができる世の中であれば、そもそもその欲求すら生まれないはずです。そうした世界で、人は何に喜びを感じ、何を求め、何を表現していくのでしょうか。

思っているよりもそう遠くはない、未来の話しです。

 

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